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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)5378号 判決 1962年5月22日

判  決

名古屋市千種区朝岡町二丁目三七番地

原告

内藤福三郎

右訴訟代理人弁護士

黒沢辰二

原田武彦

右訴訟復代理人弁護士

大竹昭三

東京都中央区京橋二丁目三番地

被告

大同石油株式会社

右代表者代表取締役

小島章弘

右訴訟代理人弁護士

石井綿樹

右当事者間の昭和三一年(ワ)第五三七八号株券引渡請求事件につき、次のとおり判決する。

主文

被告会社は原告に対し、別紙目録記載の新株式申込証拠金領収証に対応する様式について、株主名簿を原告名義に書き換え、かつ、その株券の発行をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

二、請求の原因

(一)  原告は、昭和三一年五月一八日訴外森島幸次郎から別紙目録記載の新株式申込証拠金領収証に対応する株式(以下本件株式という。)を一株一七円で買受け、別紙目録記載の新株式申込証拠金領収証と各申込人名義の白地譲渡証書との交付を受けた。

(二)  本件株式は、増資による新株式であつて、被告会社はすでに、その株券の発行準備を終り、株主に対し株券発行通知をして、昭和三一年二月一〇日よりその交付をはじめた。

(三)  ところで、本件株式の譲渡は株券発行前の譲渡であるが、株券譲渡については、株式申込証拠金領収証(払込期日に株式払込金領収証にかわり、かつ、その末尾に本証と引換えに株券を受領する受領証が添附されている。)と譲渡証書との交付によつておこなわれる商慣習がある。また、右の譲渡方法による株式の譲受人が一般株主に対し株券を発行するに至つた後、株券の発行を請求した場合には、会社は引受人名義の株式につき株主名簿を譲受人名義に書き換え、かつ、その株券を発行する商慣習もある。

三、被告の答弁

(一)  請求の趣旨に対して、請求棄却の判決を求める。

(二)  請求の原因に対して、請求原因事実はすべて否認する。

本件株式は、昭和三〇年一〇月五日の取締役会の決議に基いて、発行された新株の一部であるが、本件株式については払込期日をすぎても払込がなかつたので、それは当然に失権した。

本件増資の登記は、昭和三一年一月九日になされた。

仮りに、本件株式が失権していないとしても、原告の譲受けは、株券発行前のものであるから、会社に対してその効力を主張できない。

四、証拠関係(省略)

理由

(原告の本件株式申込証拠金領収証の取得形態について)

一、(証拠)を綜合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

被告会社は、昭和三〇年一〇月五日の取締役会において九六〇〇〇〇株の新株発行の決議をして、その手続をすすめ、

昭和三一年一月九日増資完了の登記をした。

被告会社は、原告主張の株式申込証拠金領収書(甲第一号証の一ないし六)を発行し、これに各名義人名義で名宛人白地の譲渡証書(甲第二号証の一ないし四)を添付して流通においた。その結果原告がこれを取得した。

ところで、株式申込証拠金領収証または株金払込領収証は、これに名宛人白地の譲渡証書を添付することによつて転々流通する商慣習があることは、当裁判所に顕著な事実であるから、原告は適法に右株式申込証を取得したものといわなければならない。

(本件株式申込証拠金領収証発行の経緯について)

二、しかるに、被告は、右の株式申込証拠金領収証は現実の払込がないにもかかわらず、作成された仮装のものであつて、各名義人はすでに失権しており、その取得によつて、原告は本件株式を取得しないと主張するから、先ず、右の領収証発行の経緯をたずねてみよう。

(証拠)によれば、次の事実が認められる。すなわち、前記のように被告会社は新株発行の手続をすすめたが、当時被告会社の株式の価格は一株(額面五〇円のもの)わずか三〇円足らずであつたため、新株を引受ける人が少く、払込期日まで現実に払込のあつたものは、わずか一九六〇〇株位にすぎない有様であつた。そのため、当時被告会社の支配人として事実上その経営の衡に当つていた大谷御代七は引受末済の新株全部を自ら引き受けることにしたが、都合上、被告会社の社員に名義を借りその名義で右の株式を引き受けた。

しかし大谷御代七は右の株金を現実に払い込むことなく、その払込をいわゆる「見せ金」によつて処理した上、引受社員あての内容仮空の株式申込証拠金領収証を作成し、これに引受社員名義の譲渡証書を添付して、金融獲得のため、これを流通においた。原告主張の本件株式申込証拠金領収証もその一部である。

(中略)他にこれを動かすに足りる証拠はない。

(本件株式申込金領収証の効力について)

三、ここで本件株式申込証拠金領収証の効力を検討してみよう。右大谷御代吉が被告会社の社員名義で引き受けた株式については、その真実の引受人を何人と認むべきかの問題は暫く措くとしても、株金の払込期日までにその払込がなかつたことによつて失権し、その株式申込証拠金領収証は一応払込株金の裏付を欠く一片の無価値の紙片たる観がないでもない。しかし、翻つて考えてみるに新株発行による変更登記があるにかかわらずなお、引受末済の株式がある場合には、取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるのであつて(引受欠缺による新株発行の無効をきたした場合は格別)右の株式申込証拠金領収証には、株金払込の何らの裏付がないとするのは、必ずしも妥当とはいいがたい。もし、引受人とみなされる取締役名義の仮装の払込株金領収書が発行され、これに基いて株券が発行されたとするときは恐らくは何人もその有効性を疑わないであろう。けだし、この場合には取締役が株主たることに変りはなく、ただ現実には、いまだ株金の払込がないにすぎないからである。本件がこれと異なるのは、単に株式申込証拠金領収証(これは払込期日において当然に株金払込領収証に変わるものである。)の名義人が当初の引受人であつて、引受を擬制される取締役ではないということだけである。しかし、かかる差異はその効果においても影響を与えるものというべきであろうか。引受を擬制さるべき取締役は株式申込証拠金領収証を発行すべき権限を有し、その裏付として自ら払込責任を負担するものである。かかる取締役がたまたま自己名義を用いず、当初の引受人名義を使用して株式申込証拠領収証を発行したとしてもその理はあたかも他人名義で株式を引き受けたとひとしく、これを当該取締役にあてた株式申込証拠金領収証を解して毫も差し支えがない。とすれば、引受を擬制される取締役が払込末済のうち払込株金領収証(株式申込証拠金領収証も同じ)を発行した場合には、その宛名の何人たるを問わず、会社はその善意の所持人に対し、払込の仮装たることを理由として、その無効を主張することはできないものと解するを至当と考える。

もつとも、前述のように、原告主張の株式申込証拠金領収証は、被告会社の支配人たる大谷御代七の作成したものであつて、被告会社の代表取締役の作成したものではない。しかし、大谷御代七は当時名義上被告会社の支配人であつたが、事実上会社運営の実権を掌握し、その全業務を代行していたこと前記認定のとおりであつて、右の領収証の作成も当時の被告会社代表取締役を代理していたものと考えられる。このことは被告が甲第一号の一ないし六の成立を争わず、単にその内容の仮装を主張する態度よりも首肯しうるところである。したがつて、右の株式申込証拠金領収証は、ひつきよう、本件株式の引受を擬制される当時の被告会社代表取締役により発行されたものといつて差し支えなく、被告はその所持人たる原告が善意なかぎり、これに対してその無効を主張しない筋合である。ところで、原告がその主張の株式申込証拠金領収証を取得するにあたり、前記発行の事情を知つていたと認めるに足りる資料は全くない。

(むすび)

前記認定の如く、昭和三一年一月九日本件増資完了の登記がなされており、その株券の発行も同年二月一〇日より一般株主に対し発行されていることは、被告において明らかに争ないから、これを自白したものとみなされる。してみると、被告は原告に対し、本件株式申込証拠金領収証に対応する株式につき、株主名簿を原告名義に書き換えその株券を発行する義務があるものといわなければならない。

よつて、原告の請求を正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事八部

裁判長裁判官 長谷部 茂 吉

裁初官 上 野   敏

裁判官中野辰二は転任につき、署名捺印することが出来ない。

裁判長裁判官 長谷部 茂 吉

目録(省略)

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